評価:4.2
Economistで編集者を勤めていただけあって、文章がとてもうまい。700ページ近くの本だが全く飽きなかったところはさすがだ。
フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略 クリス・アンダーソン 小林弘人 日本放送出版協会 2009-11-21 売り上げランキング : 696 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
目次
第1章 フリーの誕生
無料とは何か
第2章 「フリー」入門
ー非常に誤解されている言葉の早わかり講座
第3章 フリーの歴史
ーゼロ、ランチ、資本主義の敵
第4章 フリーの心理学
ー気分はいいけど、よすぎないか?
デジタル世界のフリー
第5章 安すぎて気にならない
ーウェブの教訓=毎年価格が半分になるものは、かならず無料になる
第6章 「情報はフリーになりたがる」
ーデジタル時代を定義づけた言葉の歴史
第7章 フリーと競争する
ーその方法を学ぶのにマイクロソフトは数十年かかったのに、ヤフーは数ヶ月ですんだ
第8章 非収益化
ーグーグルと21世紀型経済モデルの誕生
第9章 新しいメディアのビジネスモデル
ー無料メディア自体は新しくない。そのモデルがオンライン上のあらゆるものへと拡大していることが新しいのだ
第10章 無料経済はどれくらいの規模なのか?
ー小さなものではない
無料経済とフリーの世界
第11章 ゼロの経済学
ー1世紀前に一蹴された理論がデジタル世界の法則になったわけ
第12章 非貨幣経済
ー金銭が支配しない場所では、何が支配するのか
第13章 (ときには)ムダもいい
ー潤沢さの持つ可能性をとことんまで追求するためには、コントロールしないことだ
第14章 フリー・ワールド
ー中国とブラジルは、フリーの最先端を進んでいる。そこから何が学べるだろうか?
第15章 潤沢さを想像する
ーSFや宗教から、<ポスト稀少>社会を考える
第16章 「お金を払わなければ価値あるものは手に入らない」
ーその他、フリーに対する疑念あれこれ
巻末付録1 無料のルール ー潤沢さに根ざした思考法10原則
巻末付録2 フリーミアムの戦術
巻末付録3 フリーを利用した50のビジネスモデル
この本が出て、フリーという言葉はよく聞くようになったが、この本ではなにも新しいことは言っていない
しかし、多くの人がなんとなく実感をもっていたことを体系的によくまとめられているところに本書の価値がある(そして本書も「フリー」をうまく使ったことでものすごく有名になったのはご存じの通り)
それではこの本は何を言っているのか
要は簡単にまとめるとこうだ
ビット経済では限界費用がゼロに限りなく近くなるので、価格がフリー(無料)になる
ということだ。これは著者が考えたわけではなく経済学ではよく知られた事実
限界費用というのはある商品を一つ作るのにかかるコストだ。パンを一個作るのに材料費や人件費を合わせると40円ほど、というのが限界費用
それではビット経済(オンライン上でのコンテンツ市場と考えてもらえばわかりやすい)では限界費用はいくらだろうか?
これは限りなく0に近い
例えばFacebookがもう一人ユーザーを増やしたところで、サーバー代などのコストはほとんど無視できる
もし、競争的な市場だと限界費用より高い価格をつけている企業は後から入ってきた企業がそれよりも安く参入してこれる(コストより価格のが高いと余剰利益を出せるから)
これを繰り返していくと、最終的には限界費用と価格は等しくなる、というのが経済学では有名な原理だ。
これを応用するとフリーというものがある意味当然の結果として導かれる
かといって、完全に無料のものがあるわけはなくその背後ではいろいろな仕組みでそのサービスに対価が支払われている
Skypeのように電話には有料であったり、Dropboxのように無料と有料のが両方合ったり、Googleのように広告主から収益を得ると言ったように
なにもお金で計れるものだけではない
Wikipediaに関してはこんな記述がある
つまり、直接収入という計測できる価値を縮小させて、私たちの集合知という計測できない価値を増やしたのだ
したがって、こうした背後のからくりは少し考えればわかるし、経済をちょっとだけ知っていれば(なにも難しい数式をこねくり回さなくても)わかる
しかしフリーに対する疑問をQ&Aという形で記した16章は興味深かった
また、そうした疑問や誤解の引用元がビル・ゲイツなどであるとなおさら興味深い
なかでも、
4.フリーは広告収入があるときだけの話だ(そこには限界がある)
というのはぼく自身これを読む前は大方正しいだろう思っていたことだが
ウェブの世界でフリーに関する最大の過ちの一つが、収入源が広告しかない、と考えることだ。広告収入で運営するビジネスモデルがウェブの初期に優勢だったのは確かだが、第2章で紹介したように、今日ではフリーミアム(少数の有料利用者が多くの無料利用者を支えるモデル)が急速に広がっている。
とある
なるほどおもしろい
だからといってこれを読んですぐさまビジネスでうまくいくかといってもそんなことはないだろう
本書でも紹介されているし、経済学101:うまくいかないフリーミアムでもあるように、フリーという手法はやり方を間違えれば効果はないし、参入障壁が低い分ビジネス戦略が大事になる(例えば最初に市場を開拓した企業がフリーではかならず勝つとは限らない Yahoo!とGoogle、OKWaveとYahoo!知恵袋、MyspaceとFacebookなどを見ればわかるだろう)
この本は考える枠組みを提供するが、実際に考えるのは自分だ
そこを間違えなければ本書は大きな価値を持つだろう
また、現在の状況をクリアに見渡せるようになる点でも読む価値はあると思う
ちなみに本書の内容とは関係ないが、iPadで「フリー」というのにふさわしく無料となっていたためにダウンロードして読んだ
電子書籍というものを初めて体感したわけだが、思っていたより快適だ
そして電子書籍だと通常より速く読めるというのが新たな発見だ
しかしやはりiPadだと疲れる
皮肉にもKindle購入へ大きく近づけてくれた一冊だった
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